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経営

ビジネスデザインとは?定義や手法、事例などを徹底解説!

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ビジネスデザインとは?定義や手法、事例などを徹底解説!
従来のビジネスでは、技術力を駆使して新製品を開発し、それを販売するのが一般的でした。
しかし、商品のコモディティ化やIT技術の発展に伴い、単純に優れた製品を販売するだけではビジネスとして成立しなくなってきています。
そのような変化を受けて、昨今は「良い製品を作る」だけでなく「ビジネスをデザインする」という考え方も重視されるようになってきました。

そこで今回は、ビジネスデザインの定義や手法、事例などについて解説します。

ビジネスデザインとは?

ビジネスデザインとは、顧客の課題解決につながるような新しいビジネスを作り上げることです。「デザイン」という言葉には、企画の立案や設計という意味もあります。つまり、顧客の抱える課題をもとに、マーケティング施策(ブランディングや販売促進など)や営業方法などを検討することで、新しいビジネスモデルを創出する行為と言えます。

技術力の進歩や消費者ニーズの多様化によって、性能が良い製品を作るだけでは業績を伸ばすことが難しくなりました。そこで、「ビジネスデザイン」という考え方が生まれました。

ビジネスデザインの手法、デザイン思考とは?

ビジネスデザインの手法、デザイン思考とは?

ビジネスデザインの手法はいくつかありますが、今回は特に有名な「デザイン思考」を紹介します。デザイン思考とは、製品デザインなどで用いる思考方法を用いてビジネスプランを設計する手法です。

デザイン思考では、主に以下の4つのプロセスでビジネスをデザインしていきます。

ターゲット顧客への共感・理解

ビジネスデザインやデザイン思考は、製品や自社のリソースではなく、製品を利用する顧客を中心に考える方法です。したがって、自社製品を利用するターゲット顧客の持つニーズや課題を把握する必要があります。デザイン思考では、単にニーズや課題を知るだけでなく、顧客の悩みやニーズに共感することが重要です。

悩みや不満に共感することで、顧客目線でビジネスをデザインできます。その結果、顧客が本当に求めている商品・サービスを作り出せるようになります。ターゲット顧客について理解を深める方法には、アンケートやインタビュー、行動観察などがあります。

顧客が抱える課題の明確化

ターゲット顧客の課題・ニーズを洗い出したら、課題やニーズが生まれた背景を明確にする必要があります。
たとえば、「ジュースが飲みたい」というニーズの背景には「甘いものを摂取したい」や「喉を潤したい」など、人によって異なる潜在的なニーズが存在します。また、「太りすぎ」という課題は同じでも、人によってその要因は異なるはずです。

顧客によって潜在的なニーズや背景にある要因が異なるため、それを見誤ると見当違いなビジネスをデザインしてしまうことになります。潜在的なニーズや課題が生まれた背景を明確にし、ビジネスを的確にデザインしなければなりません。

課題やニーズが生まれた背景を知る際には、顧客と直接対話して背景を探るのが最もおすすめです。アンケートやインターネット上でも情報収集できるものの、その情報が本当であることや本心から来たものであるかは分かりません。また、人によって少しずつ異なるニーズの差異も把握できないでしょう。一方で顧客との対話を行えば、表情や声のトーン、何気ない一言などから、課題やニーズの背景を見いだすことができます。

たとえば、ジュースを購入する背景を知りたいならば、その前後の行動やその時何を感じていたかを聞くのが良いでしょう。そうすれば、その人がどのような動機や感情からジュースを購入したかを知ることができます。

アイデアの創出

次に行うべきは、顧客の抱える問題を解決するアイデアを出すことです。マーケティングや営業など、あらゆる観点から検討し、できる限り多くのアイデアを生み出すことが重要です。入念に検討しても、実際にやってみるとうまくいかない(ニーズに沿っていない)ことは少なくありません。

時間を無駄にしないためにも、この段階では現実性や収益性などは考えずに、とにかく多くのアイデアを出す必要があります。

プロトタイプの試作とテスト

アイデアをたくさん出したら、後はそれを1つずつ検証していきます。デザイン思考では、アイデアを検証する際に「プロトタイプ」を使用します。プロトタイプとは、必要最低限の機能のみを備えた試作品のことです。低価格ですぐ作れるプロトタイプで検証することで、コストと時間を削減できます。プロトタイプが完成したら、限られた顧客に使用してもらう形でテストを行います。

テストでは、顧客からフィードバックを得ることで「実際にニーズや課題を解決できているか」を確認します。問題がなければ、本格的にそれを事業に乗せます。課題が見つかれば、再度プロトタイプを作り直したり、別のアイデアを検討したりすることになります。

ビジネスデザインを事業に取り入れた事例3選

ビジネスデザインの考え方を用いると、どのような事業が生み出されるのでしょうか。今回は、企業とクリエイターが共同で新規事業を作り上げるコンペティション「東京ビジネスデザインアワード」で優秀賞を獲得したアイデアの中から、特に興味深いビジネスデザインの事例を3つ紹介します。

有限会社坪川製箱所

有限会社坪川製箱所は、段ボールを加工した商品を製造する企業です。軽くて加工しやすい段ボールの性質を活かして、災害で役立つ段ボール枕や子どもの知育教育で使える段ボール玩具など、ユニークな商品を数々生み出してきました。今回のコンペで、同社がクリエイターと共同開発した商品が「非常用段ボールランタン」です。

懐中電灯を用意するだけで照明を確保できる上に、組み立てが簡単で持ち運びに便利であることが特徴です。同社の強みである段ボール加工技術を用いて、災害時のニーズを満たせる商品を生み出したことが高い評価につながりました。

押入れ産業株式会社

押入れ産業株式会社は、大型荷物を預かるトランクルーム事業、機密文書を保管する事業、販促物や個人の小物を預かるレンタル収納スペース事業でフランチャイズ展開している企業です。空いているフロアを有効活用できる点や、業界初の「スピード契約」「無人見学」「キーレス」「非文書化」を同時に実現するシステムが、業界内外から高く評価されています。

同社が今回のコンペで提案したのは、レンタル収納の技術を使った展示空間です。制作した製品を見せる機会を求めるハンドメイド作家をターゲット顧客とし、小さな展示スペースを低価格で貸し出すビジネスモデルです。閉じられたレンタルスペースを「展示場所」という新しい価値に転換した点は、ビジネスデザインのお手本と言える事例です。

株式会社アーク情報システム

株式会社アーク情報システムは、イベント運営者と参加者をリアルタイムでつなぐサービスを開発している企業です。イベント情報をクラウド上で随時更新できるシステムによって、イベントの中止や場所の変更などをリアルタイムで共有できるため、業界内で注目のビジネスモデルとなっています。同社がコンペで提案したのは、広告制作やTV業界に携わる法人やフリーランスを対象としたコミュニケーションツールです。

チャット機能やカレンダー同期機能を備えており、スマホ1台で手軽に仕事上のコミュニケーションが取れるツールに仕上がっています。「スマホで業務のスケジュールや進捗状況などをリアルタイムで共有する」という斬新なアイデアが高く評価されました。

参考:https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

ビジネスデザインの学習に役立つ本3選

できるだけ網羅的にビジネスデザインについて解説してきましたが、この記事だけでビジネスデザインを語り尽くすのは難しいです。そこで、実践的にビジネスデザインを学びたい人に向けて、学習に役立つ本を3冊紹介します。

MBAビジネスデザイン 戦略設計の基本と応用

ビジネスデザインに必要な知識を網羅的に学ぶなら、『MBAビジネスデザイン 戦略設計の基本と応用』(日経BP)がおすすめです。本書では、マーケティングやビジネスモデル、イノベーション、競争戦略など、ビジネスデザインで必須の知識について、事例を交えつつわかりやすく解説されています。ビジネスデザインを実践する手順についても書かれているので、ビジネスデザインに関して一通り学習したい人には最適です。

参考:MBAビジネスデザイン 戦略設計の基本と応用

サービスデザインの教科書:共創するビジネスの作りかた

目に見えないサービスを提供する事業にビジネスデザインを導入したいなら、『サービスデザインの教科書:共創するビジネスの作りかた』(NTT出版)がおすすめです。本書では、サービスデザイン(サービスに関するビジネスデザイン)の活用事例や、サービスデザインのプロセスについて詳しく説明されています。

ジャーニーマップやステークホルダーマップなど、ビジネスデザインを実践する上で役立つテクニックも載っているので、実践的な観点でも申し分ありません。根本的に「サービスやデザインとは何か」に関しても説明されているため、基本から学びたい人にもおすすめです。

参考:サービスデザインの教科書:共創するビジネスの作りかた

無印良品のデザイン

『無印良品のデザイン』(日経BP)は、ビジネスデザインの基本がある程度わかっていて、事例を通じて理解を深めたい人におすすめです。タイトルにあるとおり、本書では無印良品の成功要因をビジネスデザインの観点で分析しています。本書で説明されている無印良品の商品開発のプロセスを理解すれば、実際に自社でビジネスデザインを導入する際のヒントを得られるでしょう。

参考:無印良品のデザイン

ビジネスデザインは現代の経営に必須の概念

ビジネスデザインは、顧客にとって価値のある商品・サービスを提供する上で不可欠な概念です。単に良いものを作るだけでなく、顧客の立場に立って課題解決のためにビジネスを作り上げる姿勢は、今後の時代を生き抜く経営者にとって必須の考え方と言えるでしょう。特に海外進出や上場によってビジネスを拡大するためには、競合他社とは抜本的に異なる価値提供が必要になります。

事業が軌道に乗っている人は特に、さらなる飛躍のためにビジネスデザインの考え方を取り入れるべきでしょう。