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経営

新規事業の立ち上げ前に知っておきたい、収支計画書を作成するメリットと作り方

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新規事業の立ち上げ前に知っておきたい、収支計画書を作成するメリットと作り方
「新規事業を始めるにあたって、収支計画書の書き方が分からない」「必ず作るべきなのか?」と疑問に思う人も多いでしょう。

この記事では、収支計画書を作成するメリットや基本的な書き方を分かりやすく紹介します。作成すべきタイミングについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

収支計画書とは?

収支計画書(予想損益計算書)とは、事業や会社に関するお金の「収入」と「支出」を詳細に予測する書類です。収支計画書とよく間違われるものに「損益計算書」があります。まずはこれらの違いを確実に理解しておきましょう。

収支計画書は未来の見通し、損益計算書は過去の振り返り

収支計画書と損益計算書はよく混同されがちですが、以下のように基本的な前提や目的が異なります。

・損益計算書:過去のお金の動きや実績を振り返る書類
・収支計画書:未来の事業やお金の動きを見積もる書類


損益計算書は「既に入ってきている収入と、既に出ていった支出」を詳細に記録する、いわば事業における過去のお金の動きや実績を振り返るための書類を指します。対して収支計画書は「これからの収入と支出」を予測します。いわば未来の事業やお金の動きを軸にして実績を見積もるための書類です。

また収益計画書は、ただ収支を予測するだけではありません。予測に沿って事業を運営するための指針となる「計画」を含んでいることも特徴だといえます。策定した計画を、実際の経営に反映させるための重要な資料にもなっています。

収支計画書はいつ作るべきか?作らなくてもいいのか

では収支計画書はいつ作ればいいのでしょうか。必ず作らなければならないタイミングは、「会社や事業に対して融資を受けたい」ときです。金融機関で融資を受けるときは収支計画書の提出を求められることが多いです。

当然のことですが、融資はまだ見ぬ将来の収益を見込んで行われます。金融機関の担当者は、融資の可否を検討するために収支計画書を精査することで、会社や経営者の能力を推し量り、事業の収益可能性を見極めるのです。

仮に収支計画書の提出を求められることがないとしても「収支計画書を作っておくと事業を進めていくうえで役に立つ」タイミングがあります。まずは起業前であり、新規事業であればスタート前です。

自己資金だけで事業を始めるのであれば、誰かに収支計画書を求められることはありません。しかし、収支計画書を作っていく中で、以下のような事業に必要なデータ分析や計画策定を進められるのです。

・起業にあたっての支出の洗い出し
・経営を安定させるために必要な利益
・事業が安定するまでに必要な期間
・商品やサービスの価格策定

提出することがないからといって大雑把に事業をはじめるよりも、これらの計画を立てて事業を始めたほうが成功の確率も高まるでしょう。

事業計画は3年先まで作って見通しを立てるべし

事業の先を見通す収支計画書だが、どれくらい先まで見通しておけばいいのでしょうか。1年先では大きな目標を立てづらいし、5年先、10年先まで細かい計画を立てておいても、社会情勢などが変化して実態に沿わない計画になってしまいかねません。

一般的には、ある程度見通しが利きやすい「3年先」までが、収支計画をはじめとする経営計画をあらかじめ立てておくのに適した期間といわれています。3年後に到達したい目標を打ち立てゴールを設定することにより、逆算する形で1年目、2年目にやるべきことも見えてくるはずです。

もちろんたった3年であっても計画通りにいかないことは出てくるでしょう。そのためにも計画を立てっぱなしにしてはいけません。3年後に初めて振り返るのではなく、定期的に計画と実績の差分を検討する機会も設けておきましょう。

収支計画書の基本的な作り方

続いて収支計画書の作り方を見ていきましょう。まずは収支計画書に書くべき項目をしっかり押さえておくことです。この項目をもとに事業計画を立てましょう。

収支計画書の主な項目

ここでは日本政策金融公庫のWebサイトで提供されている収支計画書の書式(Excel)から、主な項目をピックアップして説明します。

・売上高
飲食業であれば「客単価×席数×回転数」、製造業であれば「設備の生産能力×設備数」など、その業種の特性に合わせた方法で算出します。算出にあたっては日本政策金融公庫が提供している資料が参考になるでしょう。

売上高を甘く見積もると、早々に計画と実態がズレることになります。また融資を受ける場合は審査結果にも影響しかねないので「目標ではなく予測」であることを念頭に置いて、慎重に設定しましょう。

・売上原価(仕入高)
「原価」と聞くと、「モノ自体の価格」と考えがちですが、実際の原価には素材などの仕入れ価格だけでなく、外注費や人件費も含まれています。

売上原価の算出にあたっては毎月の費用を個々に加減乗除するのではなく、予想される原価から一定の「原価率」を設けて算出するのが一般的です。

・経費
経費には下記のようなものが当てはまります。

人件費(個人事業主の場合、事業主の分は除く)
家賃
支払利息(借入金×年利率÷12ヵ月で算出する)

後述する「利益」を算出するために、経費の合計も算出しておきましょう。

・利益
「売上高-売上原価-経費(合計)」で算出します。創業当初はマイナスになることもありますが、どのくらいの期間でプラスへ転じられるかも分析しておきましょう。

・借入金返済額
公庫や民間金融機関からの借入金返済額の元金を記入します。返済がない場合は0とします。

ここまでの項目は数字(金額)のみなので、月ごとに記入できる図表にしておきましょう。

・売上高、売上原価、経費の算出根拠
計算式や費用内訳などを細かく記入します。融資を受けるための収支計画書であれば必ず、そうでなくてもできる限り創業計画書や事業計画書との齟齬がないようにまとめます。

・売上高達成に向けた具体的な取り組み
営業活動、人材育成、設備投資など「どのようにして売り上げを上げていくか」という取り組みの内容と、それぞれの実施時期を記入します。

計画した売上高を下回った場合の資金繰り・資金調達方法

融資を受けようとしている会社のため、事業用の余分な資金はないということになっています。ここには、事業用以外の預金や資産などを記入するのが一般的です。

ここまでは「計画通り進んでいく」ことを想定し一貫した内容を打ち立ててきましたが、この項目だけは「計画通りいかなかった」ことを想定します。ここにどれだけの備えができているかは、融資の可否にも影響してくるでしょう。

商品やサービスの価格を決め、支出や収入の予測を立てる

先ほど紹介した収益計画書の項目「売上高」や「原価率」を計算するためには、まず商品やサービスの価格を決める必要があります。価格は自由に決めることができますが、目標売上高を達成できるかどうかの重要な要素でもあります。

同業他社と比べて割高な価格であれば、商品やサービスにも付加価値がなければ厳しいでしょう。安価であれば売りやすいですが、仕入れや人件費などを工夫して利益を確保する必要がありますし、過当競争に巻き込まれるリスクも出てきます。

価格を決める方法は2つあります。「価格から先に決める方法」と「支出や収入から決める方法」です。どちらもメリット・デメリットがあるので以下にまとめておきます。

価格から先に決める

市場や同業他社の動向などを分析してまず価格を決め、その価格で十分な利益を出せるように原価率を設定します。設定した原価率に収まるよう、経費の各項目の予算を立て、予算通りに収められるようにしましょう。

仕入れ価格を抑える工夫をする、人件費であればアルバイトの時給や人数を調整する、事務所や店舗の物件が未定であれば予算内の家賃で探す、といったことが出てきますし、難しい場合は価格で調整するしかないこともあります。

支出や収入から決める方法

事業にかかる経費や必要な売上高、予想される販売数などを算出し、その売上高を達成できる価格を算出します。ただし、算出した価格が顧客にとって妥当と感じられるものでなければ、販売の機会を逃しかねないので、調整が必要なこともあるでしょう。

収支計画書の作成後は多くの人に見てもらい、ブラッシュアップを

ここまで見てきたように、収支計画書に書き込まれる数字にはそれぞれ根拠があることが望ましく、冷静かつ客観的な分析が求められます。起業や新規事業の立ち上げに意気を上げる当事者の熱意はもちろん大切ですが、同様に外部の視点も重視しましょう。

収支計画書は早い段階でひとまず仕上げ、できれば起業家仲間に限らず士業やマーケティング経験者など別の視点をもって数字に接することができる人に見てもらい、意見をもらってブラッシュアップしていくことをおすすめします。