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税金・節税対策

「損金経理」って何?節税のために知っておきたい基礎知識

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「損金経理」って何?節税のために知っておきたい基礎知識
「損金経理」について、どういう意味なのか、損金算入とどう違うのかと考える経営者も多いのではないでしょうか。

損金経理とは、損金算入するために決算書において費用や損失として経理しておくことをいいます。損金経理が必要な項目としては、減価償却費や役員退職給与などがあります。損金経理をしっかりと行わないと、税務調査などにおいて思わぬ追徴課税が発生することもあります。

この記事では、損金経理の意味と具体例、損金算入との違いなどについて詳しく解説していきます。

損金経理とは?

損金経理とはわかりやすくいえば、税務調査の効果を高めるためのものです。

税務調査で益金(売上金など)の計上漏れが発覚しても、あとから修正申告で損失を計上されてしまえば、益金と損失が相殺されて追徴課税を徴収できません。そこで、減価償却費や役員退職給与など、損金の金額や計上時期を企業の裁量で決めやすいものについては、決算での費用・損失の計上を要件(損金経理要件)にすることで、損金をあとから計上して益金と相殺することを防ぐのです。

法人税における益金と損金は、企業会計における利益と損失とほぼ同じ意味ではあるが若干異なり、「権利確定基準」という考え方があります。そのために、税務調査の効果を高めるためには「損金経理要件」が必要となるケースがあります。

益金と損金

企業経理においては得られた収益から費用を差し引いたものが利益となります。このことと、法人税法において得られた益金から損金を差し引いたものが所得となることは、ほぼ対応しています。収益と益金、費用と損金はほぼ同じ意味だといって良いでしょう。

ただし、これらは若干の違いもあります。そこで法人税を申告する際には、「収益の益金不算入」と「費用の損金不算入」の部分の修正が必要となるのです。

また、企業経理と法人税法には、考え方においても異なる点があります。それが「権利確定基準」です。権利確定基準とは、たとえ経理で計上しない収益や費用があっても、支払い義務がすでに確定しているなら益金や損金として算入するというものです。

このことを、税務調査が行われたケースで考えてみましょう。

税務調査で、本来計上すべき収益が計上されていないことが発覚したとします。この場合には、上の権利確定基準により、決算書などの企業経理を修正することなく、法人税申告書上の操作のみによって益金を所得に加算することになります。

しかし、同じ権利確定基準により、支払い義務の確定している費用の計上漏れが同時に発覚した場合には、その費用を損金として加算することにより、益金の加算と相殺できることになる。特に、減価償却費や役員退職給与など、金額や計上年度を決めるにあたって企業の裁量が大きいものについては、それらを税務調査で持ち出されれば、益金の加算との相殺がいくらでもできてしまうことになります。

そこで、この「企業による後出しジャンケン」のような損金の加算を防ぐための要件が、次に解説する「損金経理要件」です。

損金経理要件とは ?

損金経理要件とは ?

損金経理とは所得税法第2条第25号において、
「法人がその確定した決算において費用または損失として経理することをいう」
と定義されています。

すなわち、損失経理要件とは、企業が経理において費用や損失として計上していないものについては、いくら権利確定基準があるといっても、税務調査のあとから損金として計上することは認めませんよ、というものなのです。税務調査における企業の後出しジャンケンを封じるためのものです。

損金経理要件が定められている項目は、減価償却費や役員退職給与、貸倒引当金、貸倒損失、資産の評価損、繰延資産の償却費などです。これらはいずれも、金額や計上する事業年度を決定するにあたっての企業の裁量が大きいものです。

損金経理要件の具体例

それでは、損金経理要件の具体例を、税務調査などで問題になることが多い減価償却費と役員退職給与について見てみましょう。

減価償却費

減価償却費は、損金経理した金額の全額が損金として必ずしも認められるわけではありません。損金として認められるのは、損金経理した減価償却費のうち、法人税法で定められた償却限度額に達するまでの金額です。

償却限度額を超えて減価償却費を計上しても、その事業年度の損金としては認められません。逆に、損金経理した減価償却費が償却限度額に満たない場合には、不足分を当期の損金として参入できないことはもちろん、翌期以降の償却限度額に加算することもできません。

償却限度額を超えてしまうリスク
たとえば、耐用年数4年の機械を400万円で購入し、減価償却するケースを考えてみます。耐用年数は4年だから、償却限度額である取得価額の4分の1ずつを各事業年度で償却していくことになります。そこで400万円の4分の1である100万円を減価償却費として計上したものの、それとは別に、機械の搬送・据付費40万円を、費用として別途計上したとします。

この例は、本来取得価額に含めるべき搬送・据付費を、含めずに損金経理してしまったものです。搬送・据付費を含めた本来の取得価額は440万円となります。したがって、各事業年度の本来の償却限度額は、440万円の4分の1で110万円です。上の例では、減価償却費100万円と搬送・据付費40万円とで、140万円を計上してしまっていることになります。

したがって、差額の30万円については、当期の損金として算入することができません。その分、法人税を余分に支払うことになるわけです。

償却限度額からの不足が生じている場合のリスク
減価償却費を、償却限度額が100万円であるところ50万円しか計上せず、50万円の不足が出てしまったまま申告したケースを考えてみましょう。このケースで、税務調査で売り上げの計上漏れを指摘され、課税所得が50万円増加したとします。

この場合、償却限度額からの不足分50万円を損金に算入すれば、課税所得の増加分50万円と相殺できると思うかもしれません。しかし、減価償却費は損金経理が要件となっているために、修正申告でこの不足分を損金に算入することはできないのです。50万円分の追徴課税は、加えて支払わなければならなくなります。

以上のように、損金経理を適切に行わないと、余分な税金の支払いが必要になるケースがあるため、十分な注意が必要です。

役員退職給与

役員退職給与を損金経理で損金に算入するためには、いくつかの要件があります。役員退職給与は金額が大きくなるため、損金経理の方法を誤った場合には大きな追徴課税が生じることもあります。

役員退職給与の損金算入時期
役員退職給与を損金算入できるのは、原則として「金額が確定した日の属する事業年度」です。したがって、この事業年度に損金経理をしなければ、損金算入できなくなることがあるので注意しましょう。

ただし、株主総会の決議などがあれば、金額が確定した日ではなく、実際に支払った日の属する事業年度での損金算入も認められます。しかし、株主総会の決議があれば支払いは何年後でも良いわけではなく、支払いが遅れるための合理的な理由がなければなりません。常識的に考えて支払い時期があまりに遅い場合には、損金算入できなくなる可能性もあります。

役員退職給与の支払い方法
役員退職給与の支払い方法は、原則として一括での支給です。ただし、資金繰りの都合など合理的な理由がある場合には、株主総会の決議により分割払いとすることもできます。

ただし、あまりに長期にわたる分割払いは、退職給与ではなく退職年金とみなされる可能性がでてきます。退職年金の損金算入は各事業年度で行うものです。

したがって、税務調査などで退職給与が否認され、退職年金であるとされた場合は、退職給与として計上した巨額の損金が丸ごと消えてしまうことになり、しかも役員退職給与は損金経理が要件であるため修正申告もできません。多額の追徴課税が生じるリスクがあるのです。退職給与の分割払いを行う際には十分に注意しましょう。

「損金経理」と「損金の額に算入する」の違い

ここまでで、「損金経理」と「損金の額に算入する」との、似たような用語が両方登場してきています。意味を混同しないよう、ここで違いをまとめておきましょう。

「損金経理」も「損金の額に算入する」も、「費用や損失として計上する」という意味では同じものです。また、費用・損失として計上しても、たとえば前述の減価償却費の例で償却限度額を上回った場合のように、損金として税務署から認められないことがあるのも同じです。

違いは、「損金経理」の用語は、それが要件となる減価償却費や役員退職給与など特別なケースについてのみ用いられ、前述の減価償却費の例で見たように、一度損金経理したものはたとえ限度額からの不足があったとしても修正申告による加算などは認められないことです。

それに対して、損金経理が要件とならない一般のケースでは、もし限度額からの不足があれば修正申告で損金を加算することも可能です。

損金不算入の代表例

最後に、費用や損失を計上しても、それを損金として算入できないケースがでてくることがある項目の代表例を見てみましょう。

役員報酬

役員報酬は、損金として算入するためには「毎月同額である」「金額の変更は年に1回、決算後3ヶ月以内」など厳格な条件が定められています。この条件を満たさない場合には、役員報酬は損金として算入できません。

接待交際費

接待交際費は、原則として損金不算入です。ただし、以下のケースのみ損金算入が認められます。

・1人あたり5,000円以内の会議費
・資本金1億円以下の企業の場合なら800万円まで、1億円超の企業なら半額までの社外飲食接待費

寄付金

寄付金は、下の計算式により損金として算入できる金額の上限が決められています。

資本金の額÷400 + 所得の金額÷40

同族会社間での取引

同族会社間での取引は、全額が損金不算入となります。

貸倒損失

貸倒損失は、損金として認められるためには要件が定められており、また要件ごとに損金計上する事業年度も定められています。

税金

税金のうち、法人税・地方法人税・延滞税・罰金など・所得税・復興特別税については損金不算入です。一方、酒税や事業税、事業所税、不動産取得税、固定資産税、ゴルフ場利用税などは損金算入が可能となります。

損金経理をしっかり行い法人税を節約しましょう

減価償却費や役員退職金など損金経理が要件とされるものについては、損金経理をしっかりと行っておかないと、税務調査などが入って思わぬ追徴課税が発生することがあります。損金経理要件があるものについては、申告による修正ができないため注意が必要です。損金経理をしっかり行い、法人税を節約しましょう。