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経営

インタレスト・カバレッジ・レシオで経営改善!財務体質を分析する方法

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インタレスト・カバレッジ・レシオで経営改善!財務体質を分析する方法
法人が自社の経営状態をチェックする際には、指標を用いると理解がしやすくなります。今回は代表的な指標であるインタレスト・カバレッジ・レシオの概要をまとめました。金融機関が融資の安全性を判断する際にも用いられる指標で、財務体質の改善を目指すなら身につけたいスキルです。

財務体質を分析する指標「インタレスト・カバレッジ・レシオ」とは?

インタレスト・カバレッジ・レシオとは、法人の返済能力を分析する指標のことです。返済負担は多くの経営者にとって悩みの種となりますが、この指標によって自社の返済能力を把握しておけば借入金を意識した資金計画を立てられるため、キャッシュ不足や倒産に陥るリスクを抑えられます。

返済能力を分析する指標はほかにもありますが、インタレスト・カバレッジ・レシオは主に「利息に対する返済能力」を判断するために用いられる指標です。この指標は、数値が高いほどその法人の返済能力が高いことを意味します。

逆にインタレスト・カバレッジ・レシオの数値が低いと、営業利益の範囲内では利息を返済できない状況を表すので、キャッシュ不足や倒産に陥るリスクが高まってしまいます。

把握する重要性とメリット

インタレスト・カバレッジ・レシオが使用されるシーンは、法人の自社分析だけではありません。社債の格付けや証券アナリストの分析、さらには銀行などの金融機関が融資の安全性を判断する際にも用いられます。

つまり、企業評価の向上や資金調達などを目指す法人にとって、インタレスト・カバレッジ・レシオは自社の問題点や課題を把握するための重要な指標となっています。返済計画を立てる際や、融資を申し込むタイミングを分析する際にも利用できるので、経営者はこれを機に正しい知識や活用方法を押さえていきましょう。

インタレスト・カバレッジ・レシオの計算式と分析手順

インタレスト・カバレッジ・レシオの計算式と分析手順


インタレスト・カバレッジ・レシオの計算式には、簡易的に計算できるものと、より厳密に計算できるものの2つが存在します。

簡易な式…営業利益÷支払利息
厳密な式…(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料)

具体的な計算手順をチェックする前に、まずは計算で用いられる各項目の概要を確認しておきましょう。

インタレスト・カバレッジ・レシオの計算に用いられる項目

営業利益 法人が本業で得た利益のこと。売上総利益から販管費を差し引いて計算する。
受取利息 金融機関から支払われる利子、または利息のこと。
受取配当金 ほかの法人の株式を保有している場合に、保有株式数に応じて受け取れる配当金のこと。
支払利息 金融機関からの借入金に対して発生する利息のこと。
割引料 金融機関からの借入金に対して発生する、各種利息(借入金利息や手形割引利息)の割引料のこと。

ちなみに、簡易的な式でインタレスト・カバレッジ・レシオを算出すると、計算結果と実態がかけ離れてしまう恐れがあります。そのため、以下では厳密なインタレスト・カバレッジ・レシオを計算する手順と分析方法を解説していきます。

手順1:損益計算書から、計算に必要なデータを集める

インタレスト・カバレッジ・レシオの計算に用いる営業利益などのデータは、損益計算書を見ると把握できます。日頃からしっかりと財務諸表を作成しておけば、利息や配当金、割引料の数値も損益計算書から把握できるはずです。

ただし、損益計算書には「営業利益と経常利益」のように見間違えやすい項目もいくつか存在するため、その点に注意しながら必要なデータを収集しましょう。

手順2:インタレスト・カバレッジ・レシオを計算する

計算に必要なデータを収集したら、あとは前述の式に当てはめるだけでインタレスト・カバレッジ・レシオは算出できます。では、以下のモデルケースを用いて、実際の計算の流れを確認していきましょう。

モデルケースにおける各項目のデータ

計算に用いられる項目 数値(単位:万円)
営業利益 300
受取利息 5
受取配当金 20
支払利息 20
割引料 10

インタレスト・カバレッジ・レシオ
=(300万円+5万円+25万円)÷(20万円+10万円)
=330万円÷30万円
=11

インタレスト・カバレッジ・レシオの単位は「倍」であるため、上記のモデルケースにおける同指標は「11倍」と表されます。

手順3:目安を参考にしながら、自社の返済能力の高さを分析する

インタレスト・カバレッジ・レシオは、金融機関が企業に融資を行う際に使用する目安となっています。そのため単に計算するだけでは意味がなく、指標のひとつとして以下の目安と比較しながら自社の状況を分析する必要があります。

財務状況の分析に使用する目安の数値

目安となる数値 会社の状況
1倍以下 営業利益の範囲内で、利息分を返済することが難しい状態。場合によっては、元金が全く減少していないこともある。
2~3倍 標準的な返済能力をもっている状態。
10倍~20倍 理想的な返済能力をもっている状態。
20倍以上 金融機関などから、かなり優良な企業として評価される状態。

インタレスト・カバレッジ・レシオが1倍以下の法人は、すぐにでも何かしらの対策に取り組む必要があります。計算式の分母(支払利息・割引料)を減らしたり、分子(営業利益・受取利息・受取配当金)を増やしたりしなければキャッシュ不足に陥る恐れがあるため、インタレスト・カバレッジ・レシオの数値が低い経営者は強い危機感をもっておきましょう。

インタレスト・カバレッジ・レシオを用いる際の4つの注意点

インタレスト・カバレッジ・レシオの活用方法を間違えると、分析結果と会社の実態にズレが生じてしまうため、効果的な経営戦略を立てることは難しいでしょう。そこで次からは、インタレスト・カバレッジ・レシオを用いる際の注意点をまとめました。

同指標をうまく使いこなすためにも、以下の注意点はしっかりとチェックしておきましょう。

1.同じ会計期間のデータを用いて計算する

インタレスト・カバレッジ・レシオの計算時に用いるデータは、すべて同じ会計期間のものを使用しなければなりません。例えば、前期の営業利益と当期の支払利息のデータを用いると、適正な値を算出することはできないので要注意です。

ちなみに、インタレスト・カバレッジ・レシオは会計期間によって数値が変わるため、できれば事業年度が替わる度に計算しておくとよいでしょう。

2.業種や規模によって、目安となる数値が変わる

前述ではインタレスト・カバレッジ・レシオの目安を紹介しましたが、業種や規模によって目安となる数値は変わってきます。特に会社の規模は計算結果に大きく影響し、大企業の場合は数値が50倍を超えることも珍しくないので、前述の目安だけで自社の経営状態を判断すべきではありません。

インタレスト・カバレッジ・レシオを分析する際には、同じ業界や規模の他社と数値を比較することが望ましいです。したがって、自社だけの数値で経営状態を判断することは避け、業種・規模・事業年数などの観点も含めて総合的に判断することを心がけましょう。

3.借入比率が低いと、計算結果と実態の間にズレが生じる

資産の借入比率が低いと、インタレスト・カバレッジ・レシオの数値は必然的に高くなります。そのため、借入比率が低いほど経営状態は良いと判断できますが、実際には営業利益が伸び悩んでいる可能性もあるので注意が必要です。

つまり、借入比率が低い状態でインタレスト・カバレッジ・レシオを計算すると、実態とはかけ離れた数値になってしまう恐れがあります。このような状況を防ぐには、ほかの指標と組み合わせながらインタレスト・カバレッジ・レシオを活用することが必要になるため、後述で紹介する別の指標もしっかりとチェックしておきましょう。

4.数値を減らしたほうが、会社の成長につながることも

前述の通り、インタレスト・カバレッジ・レシオは数値が高いほど経営状態が良好であることを意味します。ただし、経営の安定ではなく「会社の成長」を目指している場合は、インタレスト・カバレッジ・レシオを減らすことが望ましいケースもあります。

例えば、中小企業が短期間で成長するには、設備などに投資する資金が必要です。つまり、借入金を増やさない限り爆発的なスピードで成長することは難しいため、インタレスト・カバレッジ・レシオの数値に強くこだわるべきではありません。

インタレスト・カバレッジ・レシオはあくまで目安のひとつなので、同指標を高めることが経営の目的にならないように注意しましょう。

借入金の返済能力をチェックするさまざまな指標

今回紹介したインタレスト・カバレッジ・レシオ以外にも、法人の返済能力をチェックする指標はいくつか存在します。これらの指標とインタレスト・カバレッジ・レシオを組み合わせることで、実態により近い分析結果を得られるため、経営者はほかの指標についても理解しておくことが重要です。

では、具体的にどのような指標があるのか、以下で一例を紹介します。

1.自己資本比率

自己資本比率は、「純資産÷総資本×100」の式で計算される法人の安全性を判断するための指標です。数値が高いほど財務状況が安定している状態を表し、インタレスト・カバレッジ・レシオと同じく金融機関からチェックされやすい指標として知られています。

自己資本比率は最低でも15~20%程度が望ましいとされますが、業種によって目安が大きく異なる指標なので注意しておきましょう。また、自己資本比率が極端に低い場合は、倒産のリスクが間近に迫った状態を表すため、内部留保の拡大や運転資金の圧縮などの迅速な対策が必要になります。

2.債務償還年数

債務償還年数は、法人が今抱えている借金を返済しようとした場合に、「完済までにどのくらいの期間がかかるのか?」を数値化した指標です。計算式は「借入金の合計額÷営業活動によるキャッシュフロー」であるため、手元に貸借対照表があれば簡単に計算できます。

債務償還年数を把握すると、長期の返済計画を立てやすくなったり、融資のタイミングを見極められたりなどのメリットが発生するため、どのような業種であってもぜひ計算しておくとよいでしょう。

3.借入金依存度

財務状況をより細かく把握したい経営者は、借金への依存度を判断する「借入金依存度」も調べておくとよいでしょう。借入金依存度は「(短期借入金+長期借入金+受取手形割引高)÷純資産×100」の式で計算され、数値が低いほど財務状況が良好な状態であることを表します。

ちなみに、借入金依存度の目安も業種によって異なりますが、一般的には60%を超えると警戒が必要になると言われています。

さまざまな指標を活用して経営戦略を立てることが重要

インタレスト・カバレッジ・レシオなどの指標は法人の経営判断に役立ちますが、ひとつの指標だけで実態をつかむことは難しいでしょう。自社の実態をしっかりとつかみ、かつ効果的な経営戦略を打ち出すには、複数の指標を組み合わせて分析を進めることが重要になります。

経営判断に役立つ指標は今回紹介したものだけではないため、財務体質の改善を目指している経営者は、ほかの指標の基礎知識も身につけた上で自社を分析していきましょう。