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税理士と会計士の仕事はどう違う?どちらに相談すべきかケース別で解説
会計のプロである税理士と会計士
公認会計士と税理士はともに会計のプロフェッショナルとして、クライアントである企業を通じて社会に貢献する士業です。公認会計士と税理士は似た職業であるという印象をもたれやすいですが、違いも多くあります。
公認会計士は監査と会計の専門家
公認会計士の仕事は、企業が作成する財務諸表が正しく作成されているかどうかの監査を行うことです。財務諸表とは、企業の1年間の会計帳簿から作成される書類で、企業の財政状態や経営成績を示しているものです。財務諸表の範囲は、法律によって若干異なりますが(下記参照)、作成方法は企業会計原則等によって統一されています。作成方法が統一されているからこそ、企業の財務諸表を見比べれば、収益力、安全性などを比較することができ、投資家や金融機関など利害関係者の投資や融資の判断などに役立てることができます。公認会計士の監査は、財務諸表が正しく作成されていることをチェックするためのもので、これにより、利害関係者の判断を誤らせないようにしています。
会社法関係 | 金融商品取引法関係 |
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・貸借対照表 ・損益計算書 ・株主資本等変動計算書 ・個別注記表 ・附属明細書 |
・貸借対照表 ・損益計算書 ・株主資本等変動計算書 ・キャッシュ・フロー計算書 ・附属明細書 |
税理士は税務の専門家
税理士の仕事は、企業の会計帳簿から、その企業が負担する法人税等や消費税の計算をして、税務署への申告書類やそれに添付する決算書等(下図参照)の作成を行います。また、課税標準(課税対象となる額)の計算に関する相談を受けることも業務の一つです。税金の計算は一般的に公正妥当と認められる会計処理に基づいて行われるため、まずは会計処理がきちんと行われていることが正しい税計算の第一歩となります。したがって税理士には、税法だけでなく会計の知識も不可欠となります。
法人税法 |
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・貸借対照表 ・損益計算書 ・株主資本等変動計算書 ・勘定科目内訳明細書 ・事業概況書 |
公認会計士と税理士の有資格者とは
公認会計士 |
税理士 |
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次のすべてを満たす者 ・公認会計士試験に合格した者(試験を免除された者を含む) ・法定の業務補助の期間が2年以上 ・実務補習を修了し内閣総理大臣の確認を受けた者 |
次のいずれか一つを満たす者 ・税理士試験に合格した者(試験を免除された者を含む)で、租税や会計に関する一定の事務が2年以上必要あるもの ・弁護士(有資格者を含む) ・公認会計士(有資格者を含む) |
公認会計士や税理士になるためには、いずれも資格があるだけでなく、日本公認会計士協会・日本税理士連合会の登録を受ける必要があります(公認会計士法第17条・税理士法第18条)。なお、公認会計士の資格があれば、税理士登録もできるため、公認会計士が税理士登録を行ってクライアントの税務も行っているケースもあります。
公認会計士と税理士の試験の違い
公認会計士であれば税理士登録ができることからも、試験内容は公認会計士のほうが難易度が高いことがわかります。具体的な公認会計士と税理士の試験の違いは下記のとおりです。
公認会計士 | 税理士 |
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・短答式試験と論文式試験の両方を合格する必要がある ・短答式試験(択一式) 会社法、管理会計論、監査論、財務会計論 ・論文式試験 財務会計論、管理会計論、監査論、企業法、租税法、選択科目(※) (※)次のうちいずれか一つ 経営学、経済学、民法、統計学 |
・簿記論、財務諸表論、税法3科目(※)の計5科目に合格する必要がある <税法> 所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税(※)3科目のうち1科目は所得税法又は法人税法でなければなりません。 |
税理士試験に合格した方は、公認会計士試験の短答式の財務会計論と論文式試験の租税法の免除対象となります。また、税理士試験科目のうち簿記論と財務諸表論の2科目に合格している場合は、短答式の財務会計論の免除対象となります。 なお、科目合格の制度についても、税理士と公認会計士では異なります。税理士試験の科目合格はずっと有効ですが、公認会計士の論文試験の科目合格は有効期間が2年とされています。(短答式は一度合格すればよい)
税理士と会計士の主な3つの違い
1.社会的使命
公認会計士、税理士には、それぞれ与えられた社会的使命が異なります。
<公認会計士>
公認会計士の使命は、財務諸表の監査を通じて、財務諸表の信頼性を確保し、会社の公正な事業活動や、投資者及び債権者の保護を図り、国民経済の健全な発展に寄与することにあるとされます(公認会計士法第1条)。財務諸表の監査は、監査対象である会社から独立した立場で行う必要があります。
<税理士>
税理士の使命は、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、納税義務の適正な実現を図ることにあります(税理士法第1条)。税理士もまた独立した公正な立場で、正しい租税を実現することが求められています。
2.業務範囲
公認会計士、税理士は、それぞれに独占業務があります。
<公認会計士>
公認会計士のみに認められる業務は、財務書類の監査証明です(公認会計士法第2条)
・財務書類の監査証明
財務諸表が正しいかどうかの監査を行うことです。
監査には、会社法や金融商品取引法などの法律によって義務付けられている法定監査と、企業が自主的に依頼する任意の監査があります。いずれもすべての企業に必要なものではありません。
・その他
公認会計士のみに認められる業務ではありませんが、財務書類の調製、財務に関する調査や立案、財務に関する相談に応じることについても業として行うことができます。(他の法律で制限されているものを除く)
<税理士>
税理士のみに認められる業務は、税務代理、税務書類の作成、税務相談です。(税理士法第2条)
・税務代理
税務署などの官公署に対する税務申告、申請、請求、不服申立てを代理すること。
官公署の調査や処分に関する主張や陳述を代行すること。
・税務書類の作成
税務申告書や、税務に関する申請書、請求書、不服申立書、届出書、報告書、申出書、申立書、計算書、明細書などを納税者の代わりに作成すること。(電磁的記録で作成することも可)
・税務相談
他人の求めに応じて、税務署などの官公署に対する申告、申請、請求、不服申立て、税務調査や処分に関する主張や陳述、申告書の作成に関して、課税標準等の計算に関する相談に応じることです。
・その他
税理士のみに認められる業務ではないが、財務書類の作成や記帳代行などの財務に関する事務についても業として行うことができます。(他の法律で制限されているものを除く)
3.クライアント
公認会計士と税理士では、仕事をするクライアントも異なります。
<公認会計士>
公認会計士のクライアントは、主に法定監査が義務付けられている上場会社や大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)となります。
・上場企業
金融商品取引所に上場している会社。財務諸表や内部統制報告について公認会計士か監査法人の監査証明を受けなければなりません。(金融商品取引法第193条の2)
・大会社
資本金5億円以上または負債の合計額が200億円以上の会社。大会社は、会計監査人(公認会計士か監査法人)を置かなければなりません。(会社法第328条、第2条第6号)
<税理士>
税理士は、納税義務があるすべての法人・個人がクライアントになり得ます。法人であれば、主に中小企業がクライアントです。中小企業は税制上の優遇措置が多いため、税理士が価値を提供しやすい傾向にあります。また個人の場合は相続や個人事業主の確定申告の相談を受けることが多いです。
ケース別で解説。税理士と会計士どちらに相談すべき事案か
会計監査であれば公認会計士、税務であれば税理士ですが、それ以外の相談はどうでしょうか。
また公認会計士は税理士登録もできますが、あえて税理士に相談したほうがいいケースはないのでしょうか。
この項では、どちらに相談すべきか迷いやすいケースを紹介します。
新規上場のサポートを受けたい
公認会計士に相談するとよいケース。上場には審査をクリアする必要があり、コーポレート・ガバナンスや内部統制などの専門知識が必要になります。
節税対策の相談
税務相談にあたる場合は税理士の独占業務であるため、税理士に相談しなければなりません。もちろん税理士登録をしている公認会計士であれば、税務相談に応じることが可能です。ただし、中小企業の節税相談との相性がよいのは税理士だといえます。公認会計士は、クライアントが大企業であるため、中小企業の優遇税制の適用に詳しくない場合があります。
補助金の申請相談
どちらに相談しても問題はありません。ただし補助金は、中小企業者を対象とするものが多いため、税理士のほうが一般的には取り扱い件数が多いと推測されます。
相続についての相談
相続そのものの法的な効力や遺産分割については弁護士等の専門ですが、相続税の計算や相続税対策については税理士が専門となります。
企業のコンサルティング
どちらに相談しても問題ありません。
事業再編やM&A
どちらに相談しても問題ありません。DD(デューデリジェンス)については、財務DDは公認会計士、税務DDは税理士のように複数の士業が携わることが多いです。
記帳代行、決算書の作成
どちらに相談しても問題ありません。中小企業は、税理士と顧問契約を締結し、税務申告まですべておまかせというケースもあります。
公認会計士と税理士は社会的使命が異なる
税理士と会計士について、社会的使命、業務範囲、クライアントの違い、ケース別に税理士と会計士のどちらに相談したらよいかについて解説しました。どちらに相談してもよい業務も多いですが、独占業務にあたるものは、相談相手が決まっていることもあるので、適任者に相談することが大切です。